2016 年、ミルケアの顧問に就任された小西行郎先生は、京都大学の医学部を卒業後、小児科医として現場に入りながら赤ちゃんや子どもに関わる研究をなさっています。
自分の子どもや自分に合った子育ての方法が、小西先生の歩みから見えるかもしれません。

社会の変化がもたらした「子を見る目」の変化

「お腹の中で命が芽生えたその日から1000日間」のためのサービスを提供するミルケアですが、胎児から誕生後2歳までの約1000日は、赤ちゃんの成長にとって、どんな位置づけにあるとお考えでしょうか?

赤ちゃん学会の設立とほぼ時を同じくして脳科学ブームが起こり、その期間に脳に刺激を与えると頭のいい子が育つという言説が氾濫しました。確かに1000日は変化の多い大事な時期ではありますが、ただただ刺激を与えればよいというわけではありません。

まず育児の基本は、食事、睡眠、運動です。夜は20時頃までには寝かせて、ほどよく太陽の光を浴びることが基本です。そういった育児の基本を踏まえたうえでの親子の触れ合いですが、その時間をどこでとるかということが大切です。四六時中触れ合って、早期教育として知識を教え込もうとしても、自ら学ぶことがいっぱいで、一方的に教えられても身に付きません。

0歳から入れる保育園は子どもが学ぶ場所、満3歳から通える幼稚園は大人が子どもに教え込む場所という違いがあるのも、子どもの成長過程の理にかなったものなんです。

先生は、発達障害と診断される子どもが急増している原因は、子ども自身にあるのではなくて、社会変化のなかで、大人の「子どもを見る目」が大きく変化したからだと仰っていますよね。どのように変化したと考えていますか?

1960年に発刊された松田道雄先生の『私は赤ちゃん』をはじめとして、当時の育児書は、子どもは面白い存在だと楽しみながら研究しているのが根底にあるんです。現在の育児には「赤ちゃんは面白い」ということより、「正常か、病気じゃないか」「いかに頭のよい子に育てるのか」というのが先に来てしまう。それは大人の価値観の押し付けなんですよね。

子育ては深い、必要なのは子どもたちの観察と理解

ところで、赤ちゃんの「はいはい」って何種類あるかご存知ですか?

「はいはい」の種類? 考えたことがなかったです。

「はいはい」は、「ずりばい」「四つばい」「高ばい」がありますが、さらに「ずりばい」でも十何種類あります。育児書だと「はいはいはできますか?」という質問で終わりですが、発達障害のある子どもはそのパターンが少なくなるので、一つの動作にこだわるということがわかっています。

また、400mハードル日本記録保持者の為末選手が、重心のスムーズな移行がハードルのタイムをあげるのに肝になるということで、「四つばい」に興味を持っています。というのも「四つばい」は人間の赤ちゃんしかしないものなんです。大人はできないです。なぜかというと、頭が上下しないスムーズな「四つばい」には、右に行くときには、左に重心を持っていくことが必要になってくる。これが大人になるとできなくなるんです。

「異常なし」「発達障害」といったレッテルを張ることにとらわれて、子どもたちの行動を丁寧に観察し、読み解きながら理解して学ぼうという姿勢が抜け落ちていっていると思います。

子どもたちの行動を丁寧に観察して、一つひとつの事象を認めていくというのが、なぜ今はできなくなってしまったのでしょうか?

いい育児をしないといけないという思い込み、頭のいい子にしたいという願望の押し付けがあると、面白がってはいられないですよね。多様性を認めようという時代でありながら、なぜか子育てには正解を求めてしまっている。

子どもの数が少なくなったのもあるかもしれないですね。

ありますね。昔は、「七つまでは神の子」といって、お産は死の危険を伴うものでしたし、困難なお産を経て、やっと生まれてきたとしても死亡率が高いものでした。今はそんなことを言ったら訴えられてしまうかもしれません。医学の進歩もあって、多産多死から少産少死になって生まれた状況ともいえますね。

“異分野の研究者×現場の関係者”が紐解く世界

先生は現在71歳。長く赤ちゃんのことに関わられていますが、赤ちゃんを研究対象にしたのは何がきっかけだったんですか?

僕は京都大学医学部を卒業した後に、附属の病院の未熟児センターで助手になりました。京大の小児科は子どもの発育の研究に注力しており、赤ちゃんを学問の対象として捉えるようになったのは、1980年に国際小児科学会会長になった小林登先生との出会いです。さらに1989年に文部省在外研究員としてオランダのフローニンゲン大学にて発達神経学の講座を世界で初めてつくったプレヒテル先生に出会い、学んだことで、日本の小児科で学んできたことが覆されました。

例えば、赤ちゃんは原始反射(*1)でもって動くと学んできたのが、ジェネラルムーブメント(*2)でも動くということを学びました。4、5ヶ月経つと、赤ちゃんの自覚的な行動と共に、ジェネラルムーブメントは消えて行きます。

帰国後、それを同じ小児科医に話しても反応が薄い。それに飛びついたのはロボットの研究をしている浅田稔先生や國吉康夫先生でした。ここには意識と無意識の変換や自発運動の話が絡んでくるのですが、この解明がロボットの研究者から見ると面白いわけです。

それが、2001年に設立された「日本赤ちゃん学会」に発達認知心理学、発達神経学、脳科学、ロボット工学、物理学、教育学、霊長類学など様々な分野の研究者の方が集まっていることに繋がっていくんですね。

はい。それまでの小児科や発達心理学では「自分たちは赤ちゃんだった」ということを思い出して赤ちゃん像をつくるので、「妊娠中は幸せでなければならない」「生まれたら愛情を持って抱っこをしてあげなければならない」という、証拠や検証のない言説が入りこみがちでした。

僕はそういうアプローチではなくて、科学的客観的根拠に基づいて人の心の発達を知りたかった。学会と言えば専門領域の研究者が集まることが多いのですが、異分野の研究者や育児の現場の方々と構成することで、赤ちゃんの運動・認知・言語および社会性の発達とその障がいのメカニズムの解明から人の心の発達まで、俯瞰で捉えることができます。

ミルケアが担うのは、「日本赤ちゃん学会」で証明してきた、事実に基づいた子育ての考え方を広めていくことですね。

現在の育児は赤ちゃんが中心ではないところに問題があり、そこから生じた間違った育児の誤解を解いていきたいです。赤ちゃんが何を聞き、何を見て、何を感じているのかを知って、一緒に育児を楽しんでいけたらいいなと思います。

*1.原始反射…外からの働きかけに対して勝手に赤ちゃんの身体が反応する動きのこと
*2.ジェネラルムーブメント…あおむけに寝ている赤ちゃんが、手足をバタバタ動かす全身運動のこと。

文:Momoko Nakamura

  • 【インタビュー】
    小西 行郎 先生
    小児科学にとどまらない異分野の
    研究融合が示す子育てのあり方

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